オン専絵描きの悲哀「リクエスト絵を上げたら無反応だった」

二十年近く前にやっていた同人サイト時代の話ですが、今の人にもひょっとしたら分かってもらえる部分があるかもしれないと思うので、書き記しておきます。



結論から先に言うと、Twitterとかpixivで「〇〇さんの~というシチュエーションの絵が見た~い」とか「〇〇描いてください!」とか、まあ、いろいろ頼まれごとされる人は慎重に決めたほうがいいですよってこと

特に無償ならなおさら。

あなたの貴重な時間と体力が無下にされる可能性が無きにしもあらず。
相手が顔見知りでもない、とくに親しくもない、なんならオンラインだけの付き合いなら断る勇気をもってください。親しい人であっても慎重に判断したほうがいいかもしれません。

強い態度でせまられると引き受けたくないことも引き受けてしまう人や、さみしさをこじらせているひとはもっと自分を大事してね

ここから先は私が描いた無償リクエスト絵をスルーされたお話です。

二十年近く前、私は大好きなジャンルで二次創作のサイトを運営していました。オンラインでの活動も同人界隈に飛びこむのも初めてだったので、いろんなサイトに足を運んで文化やしきたり、マナーを勉強したものです。

だいたいどのサイトも入口かトップページにアクセスカウンターが置いてあり、そばに数字が書かれていたので最初はその意味がよくわからなかった。

調べた結果、「キリ番を踏んだ人にはサイトを運営している創作者にリクエストをする権利が与えられる」という文化があることを知りました。

キリのいい数字(1000や5000など)やサイト運営者本人が決めた数字(ゾロ目など)を見かけたらサイト内にある掲示板で報告をして、その時にリクエストをする。これがわりとどこのジャンルでも行われていました。

私はジャンル内ではかなり下手くそで交流も消極的な絵描きだったので、リクエストを設けるのはどうかなと逡巡しました。

でも、一度でいいからやってみたいなという気持ちの方が勝ったので、ひとまずカウンターの隣にキリ番の数字を書いてみました。

それからしばらく経って自分のサイト内の掲示板にキリ番の報告がありました。オンライン上に知り合いも友達もいない私は、誰かが訪問してくれるだけでもうれしかった。

おそるおそる書き込みの冒頭から下へスクロールしつつ「〇〇のリクエストをお願いします」という一文を読み、それからリクエスト主の名前を見た瞬間おどろきと衝撃が走りました。

その人はジャンル内ではほぼトップ5に入るくらい絵が上手くて有名な人だったので、そりゃあもうめちゃくちゃ舞い上がりましたよ。

私もその人のサイトにはよく足を運んでいましたし、自分のサイト内のリンク集にもこっそり載せていました。今風に言うなら片思いフォローというやつです。

「まさかあの人からリクエストがくるなんて!」

二つ返事で引き受けて次の日からすぐにリクエスト絵の制作にとりかかりました。

原作の関連書籍を見たり、図書館で資料を借りたり、スケッチを行ったりして、入念な準備をするのはもちろんのこと、とにかく丁寧に描こうとすごく神経を使ったのを覚えています。

それまでの私は誰かのために絵を描いたことがありませんでした。元々隠れオタクだったうえに引っ込み思案な性格も手伝って、リアルでは私が絵を描くことが好きだという一面を知っている人はほとんどいなかったのです。

自分の好きなジャンル界隈の有名人に向けて、リクエスト絵を制作している最中ずっとこんなことを考えていました。

「喜んでくれるといいなあ」と。

その絵は大体一週間くらいかけて描き上げたと思います。

リクエスト絵はほとんどの場合、自分のサイトにアップロードした時点で完了、というのがならわしでした。リクエスト絵のページには何番のキリ番で誰に向けて、どういうリクエスト内容だったかを明記します。最後には「リクエストありがとうございました!」という文で締めくくっていました。

どきどきしながらリクエストされた絵とお礼の文章を書き添えてアップロードしてから数日待ちました。

ところが待てど暮らせどリクエストをしてくれた主からの反応がない。自分のサイトに設置してある掲示板を何度も何度も見ましたが、最後の書き込みは私がリクエストを受諾したときのやりとりだけ。

おかしいなと思ってとりあえず自分のサイトを点検してみましたが、普通に閲覧はできる。webページやサーバーには何の問題もない。

リクエスト主のサイトに飛んでお知らせや日記や掲示板を見ましたが、特に更新を停止している様子もなく、常連さんと楽しくやりとりをしていたり、新作を上げたりしていました。

ここで私は一つ、あることを思い出します。リクエスト絵をアップロードした人が直接リクエスト主の掲示板にお邪魔して完成を報告しているケースもあったな、と。

脳内で、「描き上げたのだから積極的に行け」という自分と、「めちゃ絵が上手い人たちも見ているような掲示板で、下手くそな自分がリクエスト絵の完成を報告するのはどうなんだ」という葛藤がありました。

一週間くらい悩んでいたと思います。

結局、私はその方の掲示板で報告することができませんでした。その後もサイトを閉鎖するまでリクエスト主から反応が返ってくることはなかった。

自分のサイト内に飾られたリクエスト絵とお礼の文章だけが宙に浮いていて、宛先不明で戻ってきた手紙に似ているなと感じました。

反応がなかったのはリクエストをした人の好みに合っていなかっただけなのかもしれませんし、こればっかりは自分の力不足だからしょうがない。

元々ジャンル内では路傍の石ころみたいな存在だったし、私みたいな交流も活発じゃない、ぽつぽつ好きを表現するだけのサイトに来てくれて、リクエストまでしてくれたのはありがたいことだったのだと、全力で自分に言い聞かせながら泣きましたよ。

オンライン同人サイトデビュー、19歳のときのことでした。

そういうわけだから、個人サイトやSNS内で無償リクエストをウッキウキで引き受けたけど、その後だれからもなーんにも反応がなかったそこのあなた。どうか気を強くもってくださいね。

ガッカリしてメソメソしちゃうのはよくわかる。でもね、そのことで自分を責めてはダメですよ。

リクエスト絵を描き上げるために使った労力は無駄ではないんだな、これが。だって赤の他人のために何かを描く経験って、一人だと絶対にできないことだから。

オンラインで顔もみたことがない、会ったこともない相手に無償で何かを捧げるってなかなか貴重な経験だと思うし、人によってはタダで描くのを嫌がる人もいるわけだから、己のボランティア精神天晴れナリですよ。

無反応はたしかに心がえぐられるかもしれないし、立ち直るのに時間がかかるかもしれないけど、それはすべて自分の糧にしましょう。

オンラインやSNS上でリクエスト絵を無償で引き受けたことのある絵描きのみなさま、本当におつかれさまでした。

ここまでお読みいただき…

え?当時のリクエスト絵は載せないのかって?

載せませんよ、だってリクエスト主本人がここを見てるかもしれないじゃないですか。



ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

今日の見出し画像↓※当時のリクエスト絵ではないですよ。オリジナルです。

画像1

おもいっきり泣くとスッキリするよね。

コメントは受け付けていません。