
私にはこれまで字書きの友人が二人いました。一人は天才型、もう一人は努力型。どちらも大学時代に出会ったことがきっかけです。
先にこの話の中における天才型と努力型について説明しておきます。
カンタンに言うと、私の中の評価基準で「どちらかといえば理論」というものがあります。
才能を評価する時っておおまかにわけると二つに絞れると思うんです。よく、アスリートでも天才型か努力型か、って周りがやいのやいの言ったりしますよね。
そういう感じで私の字書きの友人も、私が見て、実際に感じたことを「どちらかといえば」という物差しにあてて考えた場合、天才型と努力型に分けられるなと思ったわけです。
こういう一握りの才能を持つ人にしか許されないような単語を用いることってどうなのと、突っ込まれるかもしれません。まあ、要はオタク同士の褒め合いによくある「身内にはやたらと甘い」っていうアレだということで。
この記事では、読み手のみなさんが考えるような「天才とは、努力とはこうだ理論」はあんまり意味をなさないと思ってください。
すべては私の思い出話に集約されているわけですから。
7000文字以上あるので、結論だけ先に書いておきます。
1、小説の賞に応募する前に「構成」をしっかり見直す
2、小説を書く上で「絶対的な自信」はかなり大事
3、全ての経験が作品づくりの糧になる
前置きが長くなりましたが、私が出会った天才型の字書きの友人の話。
目次
1、とんでもないペースで毎週小説を書き上げては持参する友人
大学に入るまでの私は、それまで小説を書く人間がまわりにいなかったこともあって、字書きの友人の行動が不思議でならなかったです。
私と彼女は大学でたまたま同じ授業を取っていて、なにかの拍子にオタクっぽい話題が通用する相手だということがお互いわかりました。
私が絵や漫画を描くこと、彼女が小説を書くという情報交換をしてから、彼女から「今度わたしが書いた小説を読んで感想を聞かせてほしい」と言われ、そこから謎のリレーがはじまりました。
次の週、授業が終わった後に「これ書いたから読んでみて」と、クリップで留められたA4コピー用紙の束を渡されたのですが、その量が異常だった。
なにせ本数がおかしい。
持ってくるときはだいたい4~5本は当たり前。一作あたり1600文字×30枚が平均で、多いときは一本あたり50枚とかがデフォルトでした。たまに両面コピーで数十枚とか、ライトノベルで見かけるような二段形式のレイアウトで作ったお話とかもありましたね。
私のような普通のアタマじゃ読む速さが追いつかなかったし、授業の課題やバイトの合間に一生懸命ストーリーを追いかけるけど終わらない。彼女の小説でレポート書いて、それで単位取れたらいいのにと思ったほど。
この怒涛の小説読破リレーを1、2週間おきに講義で顔を合わせるたびにやりとりするわけです。
読み終えていようがいまいが、新作やシリーズがわんさか増える。話の設定やキャラの名前と関係性を覚えて、物語を味わって感想を伝えて。今思うとなんだか課外授業みたいでした。
彼女から感想を求められたときに「まだ読み終わっていないんだ」と謝ったことも何度かありました。
このとき、私は字書きの人のことを完全に勘違いしていました。
「小説書く人って3~4万字程度の話ならカンタンに書けちゃうのかぁ」
と。
世の中の小説を書いているみなさん、本当に申し訳ございませんでした。
そういう人ばかりではないことは、後に努力型の字書き友達の姿勢を見てわかったことなのですが、彼女に出会っていなければおそらく今も思考が偏っていたと思います。
卒業してからも定期的に会って遊ぶときは、お土産代わりにA4用紙のコピーの束を渡されました。今まで読んだ本数は、ヘタすればそのへんのプロの小説家より多いんじゃないかな。
なんとも奇妙な友人に出くわしたものです。
おかげさまで退屈知らずの学生ライフを送りました。
2、ジャンル変遷が現代、SF、ホラー、ファンタジーと色々あったが最終的に現代BLの幼なじみモノに特化
友人は10代のころから既に小説の賞にも応募していました。たまにゲームのシナリオにも挑戦していたけど、基本的に小説一本。
賞によっては出版社から応募者全員に評価シートをつけてくれるところもあったみたいで、いくつか読ませてもらったこともあります。
大学時代、お昼休みの時に彼女は「一般向けじゃなくてBLジャンルに行った方がいいんじゃない」みたいなことを評価シートに書かれたと、ぼやいていました。
たしかに彼女は毎週のようにハイペースで小説を書き上げてくるのですが、ほとんどが10代~20代くらいの男子が中心。話の中の距離感も近かったりして、どこか絆や心情的な一体感を大事にしているフシがある。
今でいうブロマンスと恋愛ものの中間みたいな雰囲気でした。
私も一度「これBLなの?」と聞いたことがあります。
当時の彼女は目指す方向として純文学系に舵を切っていたらしく、この問いにはあんまりはっきりとうなずいたりしなかった。
私はガッツリBLに行った方が才能を発揮できるんじゃないかとみていたのですが、そこまで強く勧める権利もないし、相手には相手なりの考え方があるんだろうなと思ったので、「そういうもんか」と流しちゃいました。
ところが彼女は年を重ねるにつれて、だんだんとBLに方向転換するようになるのです。
詳しいことはのちほど話しますが、おそらく二次創作をはじめたことと、BL小説の公募で手ごたえがあったことがきっかけだと思います。あくまで私の勝手な解釈ですが。
大学時代の彼女は本だけでなく、映画もよく見ていました。その映画のレビューも、これまたA4のコピー用紙にプリントアウトして読ませてくれました。B級映画から有名どころまで一本一本感想を述べていて、着眼点も面白かった。
自分が経験、体験したことやインプットしたものをお話に取り入れて昇華させるスピードが異様に早いのも、彼女の特徴でした。
インプットとアウトプットのサイクルが目まぐるしい。
そうなると必然的に着手するジャンルにも多様性が生まれるわけです。
書くものが現代ものだったり、ホラーだったり、ファンタジーだったり、SFだったりと、当時はずいぶん幅広くこなせるもんだなあと感心したものです。それは後に、既存の作品から学んだものや得たものを、自分の小説を書くうえで大いに活用していたからなのだ、ということに気づきました。
さらに特筆すべきなのが、彼女はプロットというものを一切書き出したりせず、頭の中で全て処理していたのです。
記憶力の悪い私からすると、バケモノみたいな思考回路だなと思ってしまう。もちろん褒め言葉ですよ。
アタマをフルスピードで回転させていた彼女は、いろいろなジャンルを書いて豊かさを蓄えて、その電池をすべてBL小説で使うことにしたのです。
ところで章のタイトルにある「幼なじみモノ」に特化した、というのはもともと同級生同士の組み合わせや、昔からの知り合いみたいな関係性が好きだったみたいなので、自然とそっちの方向に力を入れるようになったんだね。
幼なじみモノ、好きですか?
BL小説をあまり読まない分際でこういうことを言うのはおこがましいかもしれませんが、私としてはライバルとか宿命のナンタラみたいな、ピリピリした関係性のほうがハラハラして面白いな、とか思ってしまう。
どうも彼女は「ほのぼの」「安心・安定・安寧」を良しとしていたみたいです。そこが美点だったし、結果的に特定の場所ではおなじ属性を好む読者に受け入れられたわけですが。
3、彼女が二次創作を始めたのは20代後半だった
友人に「二次創作はやらないの?」と大学時代に聞いたことがあります。
なぜかというと、私が当時ある人気ジャンルの二次創作にハマっていて、同人サイトをオープンさせていたからです(ちなみに全年齢向けのオールキャラギャグ)。
まあ、私はけっこう寂しがりやなタチなので、身近に仲間が欲しかったんだね。それで彼女にも声をかけてみたわけです。
でも、本人はあんまり興味がなさそうでした。ちょっとだけガッカリしたけど、ジャンルがピンとこない、同人サイトを作るハードルが人によってはかなり高い事実を考慮すると仕方がないのかなと、自分を納得させて忘れることにしました。
大学を卒業してから数年経ったころ、SNSで二次創作をしていることを彼女から手紙で教えてもらいました。もうその時はお互い27、8歳くらいになっていたと思います。
彼女のジャンルを知ってビックリ。それは私が開始当初から推していたジャンルでした(※私が大学時代にハマっていたジャンルとは別です)。
正直、「私が熱心にそのジャンルのことを話していたとき、めちゃくちゃ引きながら冷めてたのに、ハマったのかい」と内心もやもやしましたが、それはそれ。
手紙には、いい年をして二次創作をすることに若干はずかしさや照れが含まれていたので「あー、そこ気にするのか」と、ほほえましい気持ちになったのを覚えています。
SNSで彼女の作品をひととおり見てから、ふとしたきっかけで遊ぶことになりました。
そのときに、人間は二次創作の楽しみや喜びを知るとこんなに変わるのか、ということをまざまざと見せつけられた。
彼女は自分宛てに届いた、ROM専の人からの感想をプリントアウトした用紙を抱えながら、うれしそうにSNSで起きたことを語っていました。
ただ、私はものすごく嫉妬深いので(ハイ、出た)、表面上は「よかったね」と合わせつつも心の奥底ではただひたすら「感想もらえてうらやましい」という感想しか出てこなかった。やれやれ。スタンス違いの友人に対してもこれだもの。困ったもんだね。
ちなみにSNSにおける彼女の作品の評価は控えめにいって高かった。
字書きのレベルとかについて細かいことはわからないけど、少なくとも感想がざくざくもらえるのってけっこうなものじゃないかな。ジャンルによるのかもしれないけれども。二次創作といえど、そのあたりはわりと読者の反応はハッキリくっきりしているはず。
別のジャンルでも二次創作をしたとき、そのカップリング内では実質一番になったのではないか、ということも言ってました。「書き手が少ないから繰り上げ当選みたいでなった」と、訂正していたけど十分すぎる。
それより凄かったのは二次創作に活動の場所が移っても、相変わらず作品数が多かったことと、話や文章力のクオリティがかなり上がっていたこと。
大学時代はまだ勢いや荒々しさがあったけど、SNSで人目に触れる機会が増えたことで技術も魅力もさらに磨かれていた。
SNSでの経験が効いたのかはわからないけど、賞への応募後に出版社からもらう評価シートの内容が少しづつ変わり始めたのはたしかです。
場所によっては、応募者のランク(クラスともいう)をA~Eまで判定するところもあるのですが、彼女は実力をつけるにしたがって一定のランク以上はキープできるようになったからです。
その才能と実力が認められるようになったのはもちろん、BL小説の公募でした。
4、天才の唯一の弱点は〇〇だった
彼女は小説の賞にはずっと応募し続けていました。折に触れて私も作品と評価シートを読ませてもらって、ああでもないこうでもない、というやりとりをしながら次につながるように励ましたりしていたのです。
で、私が長いこと気になっていたのが、出版社が違っても共通して同じ指摘を受けつづけていること。
天才の唯一の弱点、それは、「構成」。
一度、彼女はBL小説の賞で最終候補に残ったことがありました。
結果的に落選してしまいましたが、これだけでも凄いことです。その時はもうすでに30歳を超えていて、若手と競い合うような厳しい環境に置かれていたのですから。
私はその最終候補に残った作品を読ませてもらったときに、「惜しい」とすごく残念に思ってしまったのです。なんというか上手く言えないんだけど、あのパート削って、このパートをちょろっと入れ替えるだけで結果は違っていたんじゃないか、そんなかんじ。
評価シートではキャラクター、ストーリー、文章力についてはほぼ問題はないと、太鼓判を押されていたのにやっぱり「構成」が最大のカベでした。
BL小説というと、主人公と相手役の恋愛がメインなのに、彼女の場合は恋愛以外のパートになぜかやたらと力を入れるクセがありました。たとえるなら、主人公と相手役に共通する脇役のエピソードの尺が長い、といった具合に。
集中しすぎて逆に周りが見えなくなるってやつです。これは私以外の友達も指摘していたくらいに目立つ部分だった。
書くのは早い、キャラクターも魅力的、設定やストーリーも発想の良さを編集部から褒められる、破綻も少ない、情景、濡れ場描写も難なくこなせる、なのにたったひとつ、「構成」という部分でもったいないことをしていた。
それが私の人生で初めて出会った、天才型の字書きの友人でした。
5、その後どうなん?
結論から言うと、彼女とはリアルでの友人関係をバッサリ断ちました。
ここまで書いておいてなんともわびしいオチだなと、我ながら思います。
いろいろ感謝しているし、良いことも悪いことも共有できた。
今の私がいるのは彼女のおかげと言っても過言ではない。
長いこと友人関係をうまい具合にやってきたけど、まあ、なんやかんやあって「これ以上はムリだな」と私の方から離れました。
ただし、彼女の才能やセンスにおいてはまぎれもなく天才だったと思います。作品自体は好きだったし、インスピレーションもたくさんもらえた。
大学時代、授業の一環で小説を書く機会があったのですが、やっぱりそう易々といくことはなかった。そのときに文字で物語をつむぐことの難しさと素晴らしさを、身をもって実感したのです。
人って自分とは違うタイプに惹かれるとはいうけれど、まったくもってそのとおりだなと、自分の人生を振り返ってみていろいろと考えさせられるものがあります。
彼女がその後どうなったのかはわかりません。
もしかしたら賞を取って、どこかの出版社から女性たちを熱くする本を出しているかもしれません。
道は分かれても、成功してくれればと、何かしら幸福があればいいなと、心の底から思うのです。
6、まとめ
私の思い出話に長々と付き合っていただいてありがとうございます。
技術面では小説を書く上で「構成」を見落とすのはもったいない、という部分だけでも持ち帰っていただけたら幸いです。
あとは、新たに得た経験や知識を小説に役立ててひたすらアウトプットしまくることと、BLみたいなエンタメをメインに絞るならキャラクターを魅力的に書くことが大事なのだと、傍で見ていて感じました。
彼女は日常の中から、一見すると使いどころがよくわからないネタもよく拾ってました。それを上手いこと脳内で組み合わせて、新しい話やキャラクターを生み出すのが早かった。
つまり、全ての人生経験が小説を書く上で生きてくるってことです。
そしてメンタル面ではなんといっても「自信」。これがものすごく重要。
彼女は全ての自作品において絶対的な自信を持っていました。
自信って、すごいですよ。前進する力が半端じゃない。
これを読んでいる字書きの方で、なかなかうまく筆が進まないのであれば、なんでもいいからとにかく自分を信じてください。
作品を執筆している途中で落ちこむこともあるかもしれません。しかし、なにごとも完成させてみないとわからないことだってあるわけです。
それに、彼女もリアルで私以外のいろんな友達に作品を見せて、なかには「直に悪い反応をもらったことがある」と話していました。
SNSでも、せっかく書いた素敵なお話に、読み手の人から返信に困る妙ちくりんな感想がついたこともあった(実際に私も彼女のスマホでそれを見ました)。
評価シートだって、プロの編集から厳しい総評を言い渡されたりしたことが何度もあった。
直後はものすごくキレてたけど、次に会うときには復活して小説書き上げてケロッとした顔で持ってきていました。
つまり、どんなことがあっても絶対的な自信だけは維持し続けたわけです。
受賞まであと一歩のところまでこぎつけられたのは、こういった不屈の精神あってこそでしょう。
そういうわけなので、絵描きの私が言うのもナンですが、みなさん、いい字書きライフを送ってください。なにごとも自信をもって、GOですよ。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
おまけの余談(BLが苦手な人は回避してください)↓

今日の見出し画像。

友人がBL小説を書いていたという記事内容なので、なにかそれにふさわしい絵はないもんかと探していたら、ギリギリいけそうなのがコレだったのだ。
余談ですが、彼女は男性同士のベッドシーンを書くのが超絶上手でした。
大学時代に、本人からA社という官能小説で有名なところの本を読んで(艶っぽい場面について)勉強していた、という話を聞いたことがあるので、それが良かったのかもしれない。その出版社では男女もの作品が主だったけど、まさか応用として、BL小説にも生かされるとは。
彼女のBL小説は、朝のウェイクアップから夜のウェイクアップまで表現力豊かなもんだから、読んでいる私としては恥ずかしくて動悸をおさえられなかった。特に夜の方ね。
技術が上がるにつれてキャラクターの色気も上達していく。最後の方はほぼほぼベッドシーンは飛ばしていました(これは本人にも正直に伝えた)。
いや、ふつうに読みなさいよって話なんだけど、文章になると何故か照れてしまうんですよね。上手いからなおさら直視できないことって…あるじゃないですか。
天性の色気とかセンスとか発想力とか、話の空気感も含めて天才型だったなあと言わざるを得ない。
自分と違うタイプだったからこういう結論にたどりついたと評するには、あまりにも多くの時間を費やしすぎた気がする。
そんなこんなで、リアルで初めて出会った天才型の字書きの友人についてのお話でした。
努力型の字書きの友人の話もいつかできたらいいなと思います。
ついでにそんな二人にはさまれた絵描きの私の話もたぶん、どこかでするでしょう。
ここまでお読みいただき、お疲れ様でした。
ではでは、さようなら。